高級目黒区 マンション
みなさんが、ふとしたことがきっかけで、とある街に立ったとしましょう。
「あっ、なんかいい街だな」とか「よし、この街に住んでみよう」と思ったとき、最初に必要になるのが「家」や「部屋」です。
では、その家や部屋を探すときはどうするでしょう。
ここで「街の不動産屋」の出番となります。
ところがこの「不動産屋」ですが、バブル好況期の狂乱地価や「地上げ」のイメージが色濃く残っているせいか、「不動産屋」の前に「悪徳」という字がついて、まるで悪の権化のように思っている人も多いのではないでしょうか。
何を隠そうこの僕は、とある首都圏近郊の街で、もう二十五年以上も不動産屋を営んでいます。
誤解のないように、まずご説明しますが、ひとつの街でこんなに長い間商売をするためにぜったい欠かせないことは、「お客様に信頼される」ということです。
人をだまして自分だけ得をする「悪徳」な商売をしていたら、その時点でその街にはいられなくなります。
結局、いろいろな街を転々として同じことを繰り返す。
商売抜きに考えても、とても不幸なことです。
二十五年以上不動産屋を営んで得た僕なりの結論。
「この商売、意外ともうからない」の一言につきます。
考えてもみてください。
お客様が買うまえに、その商品の欠点をオープンにする業界は不動産業界だけです。
たとえば「よくゴミを吸い取る、けれどもうるさい」掃除機があったとしても、メーカーや小売店は「けれどもうるさい」ことは強調しません。
「車内がとても広い、けれども燃費がおそろしく悪い自動車があったとしても、セールスマンは「車内がとても広い」ことを強調して売り込んできます。
では、不動産屋はどうでしょう。
アパートの部屋を一度でも借りたことのある人ならおわかりかとも思いますが、「駅から近い、けれども、国道に面していて夜もうるさい」とか「駐車場も完備していて部屋も新しくてきれい、けれども、家賃が高い」ことは、パンフレットはもちろんのこと、店員に案内されて一回その物件を見てしまえば、一目瞭然なのですから。
こんなやりにくくてもうからない商売を、どうして二十五年以上もやっているのか、ときどき自分でも不思議に思います。
でも最近、その理由がちょっとわかりかけてきました。
やはり「面白いし、楽しい」のです。
思い起こせば、いままでたくさんのお客様が、僕の店にいらっしゃいました。
気に入った部屋がなかなか見つからず、やっとの思いで希望通りの部屋を見つけたものの、わずか一カ月で地方に転勤を命ぜられたサラリーマン、運転免許も持っていないのに駐車場完備のアパートにこだわったOL、はじめての一人暮らしで親子ともども不安な面もちの母親と女子大生。
店に来るお客様だけではありません。
アパートを建てて、どこに入居者の仲介をしてもらおうかと悩んでいるオーナーさんの相談にも乗りますし、「マンション一軒まるごと買いたい」というお客様のために、売りに出ている物件を探し回ったこともありました。
もちろん、僕はその一つひとつの仕事を「誠意をもって」やってきました。
人間生活の「衣食住」の『住」の部分を担う重要な商売ですから、「面白い」とか「楽しい」などと言うのはちょっと不謹慎かもしれません。
でもそれだけ重要な問題だからこそ、お客様も真剣になるのですから、当然こちらも真剣にならざるを得ません。
その「真剣」がお互いにぶつかり合うことによって、僕たち不動産屋とお客様の両方が満足できるのだと、僕は信じています。
「ああ、いい部屋が見つかってよかった」というお客様の笑顔を見ることが、僕にとって面白く、楽しいことなのです。
そんな二十五年の不動産屋稼業に一区切りをつける意味で、また、いままで僕を支えてくれたオーナーさんやお客様、社員の方々にお礼を述べる意味で、ここでペンを執ることにしました。
大好きなこの仕事を、もっと楽しくやっていくために、ぜひとも形に残しておきたかったのです。
じっは、ちょっと言いにくい不動産の秘密や、業界でタブーになっていることも、随所にちりばめてあります。
この本を読んでくださったみなさんが、今後街の不動産屋で部屋を借りるときに、きっと役立つはずです。
みなさんが気に入った街に住むときに、その窓口となるのが、僕たちのような、「街の不動産屋」なのですから。
不動産業は、愛の産業である。
愛情を持ってお客様に接し、愛情を持って取引する商売といえる。
しかも、取引は明朗で、オープンである。
こんなやり方は、他の業界には見当たらない。
契約するに際して、お客様に物件を見せ、物件の長所を説明するだけでなく、欠点となる悪い箇所まで説明する。
その上、買いたいと希望するお客様に、金銭的な相談をして、本当に買えるのか、支払う能力があるのかどうかまで計算する。
商売の原則からいえば、契約を中止させれば仲介料は入らないし、商売が成り立たないから、的外れであるが、ひとえに、愛情からくるものである。
人間を愛する心があれば、他人の欲望を自分の欲望と感じ、他人の苦しみを自分の苦しみと思えるのである。
愛情を持って仕事をすることは、アパートを主体とする賃貸業についても、同じである。
まず、一年を通じて一番いそがしい三月について、駅前店舗の僕の店から、その内情をご紹介したいと思う。
「社長、お電話が入っています。
トキワハイムのM部長からです」女子社員が足をとめ、電話をとると、早口で僕に伝えた。
「大事なご報告だ、と言っていますけど、間髪を入れずに、僕は答えた。
十五分後には、お断りして、よろしいのですか?」大事なお客様が来て、商談に入る。
その試算表を休まず作っていて、顔も上げなかった。
女子社員は、自分も接客中のお客様を待たせていたので、そわそわしながら念を押した。
「困るな。
あの大手会社の部長か。
いそがしいのに。
都合がついたからこっちへ来たいということだろう」「悪いけど、接客中だと言ってくれないか。
それから、今日の三時過ぎには、会社にいると言ってくれ」僕は時計を見た。
予定より五分遅れていた。
もっとピッチを上げる以外にない。
リリーン、と二台の電話が同時に鳴った。
社長、MマンションのS様から、もう引っ越しが完了したので、立会いをお願いしたい、ベテラン社員のS嬢が、落ち着いた口調で、僕がオーケーかどうか聞いてきた。
「わかった。
予定に入っていたな。
いまいそがしいので、十五分で行くと言ってくれ」「十五分後で、よろしいのですね。
解約届けも出ていますし、三月分も入っています」問題はない、と言わんばかりに、彼女は僕の聞きたいことを先に答えた。
オーナーからもらえるのは八割ぐらいで、解約者からとるケースでもない。
しょうがない。
どこかから、ひねり出すとするか。
僕は立ち上がり、時間の配分を考えた。
仕事を処理していくには、引っ越しを先に片づけ、予定を変更する以外にない。
急いで上着をはおり、バイクのキーを持って玄関に出ようとすると、若い夫婦にバッタリ出会った。
「こんにちは。
契約に来たのですけど」青年は、にっこり笑いながら、おじぎをした。
手には、わが社の緑の袋を持っていた。
「いらっしゃいませ。
えーと、何号室?」「プレドグリーンヒルの二○一号です」「わかりました。
さっそく手続きいたしますので、奥の室でお待ちください」
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